大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

広島家庭裁判所尾道支部 昭和50年(少)171号 決定

少年 M・M(昭四一・一〇・二〇生)

主文

少年を教護院に送致する。

理由

(非行事実)

少年は

第一  昭和四九年一一月二四日午前一〇時頃、広島県因島市○○町○○○箱○道○方において、箱○ヤ○コ管理にかかる現金二〇万円ならびにネックレス一個(時価一万円相当)在中の手提バック(時価三〇〇円相当)を窃取し、

第二  ほか一名と共謀のうえ、昭和五〇年四月一二日午前一〇時頃、同市同町○○○の○杉○松○助方において、杉○友○所有の現金四〇〇〇円位(貯金箱四個入り)を窃取し

たものである。

(適用法条)

第一の事実につき刑法二三五条、第二の事実につき同法六〇条、二三五条

(保護の事由)

一  非行歴について

少年は、早くも保育所時代に酒屋の金に手を出したことがあり小学校一年生のときには友人宅から現金四〇〇〇円を持ち出したほか、数多くの窃盗事件を起こすようになり、小学校二年生になつてもこの傾向は収まらず、友人とともに現金盗を重ねるなかで本件各非行を犯すに至つたものであり、また少年は、保育所時代から自宅や他所での火遊びが数回あるほか、自宅より現金を持ち出しては遊興や飲食に費消するなど、その非行性は強度であるといわざるを得ない。

二  家庭環境、少年の性格について

少年は、因島市○○町で父M・S、母M・J子の長男として生まれたが、少年が一歳の頃、母M・J子は父M・Sといさかいを起こして家出をし、同人と協議離婚するに至り、以後父M・Sが少年の親権者となつたが、同人は定職を有せず、昭和三七年頃から暴行、傷害等の粗暴事犯を犯すようになり、昭和四五年、昭和四八年には岡山、広島各刑務所にそれぞれ服役し、現在も昭和四九年四月に犯した暴力行為等処罰に関する法律違反の罪で広島刑務所において受刑中の身である。上記の事情で、少年はもつぱら祖母M・Y子の手で養育されたが、同女も生計を維持するため働かざるを得ず、そのため、躾について不十分なまま放置され、食事のマナー、言葉づかい、対人関係の持ち方などについて基本的な生活習慣が身についていないうえ、欲求不満場面での対応力がなく、すぐ泣いたりする一方、衝動的で自己中心的行動に走りやすい傾向がみられる。

三  児童相談所の取扱経過について

少年は、昭和四七年八月二四日、保育所における集団生活への不適応、友達への乱暴等の理由で、保育所保母に伴われて福山児童相談所を訪れ、助言指導を受けたことがあり、同年九月二八日にも祖母とともに同児童相談所を訪れ、同じく助言指導を受けたが、以後本件触法行為の通告があるまで同相談所との接触はなかつた。ところが、昭和四九年一一月に至り、本件第一の触法行為で児童相談所への通告を受けることになり、さらに昭和五〇年四月、同種の触法行為(本件第二)で再び通告がなされたため、福山児童相談所では、同月二一日により一時保護の措置をとるに至つた。そして同児童相談所では、少年について施設入所が適当であるとして、受刑中の父M・Sに書面照会あるいは面会、事情聴取を行なつて施設入所への同意を求めたが、承諾を得ることができなかつたため、同年五月一四日児童福祉法二七条一項四号により当庁に送致したものである。しかるところ、少年は一時保護中にあつても、ほか一名とともに児童相談所を無断外出して数件の窃盗を敢行するなど、その非行傾向は放置できない状態にまで立ち至つていると認められ、少年に対し根本的な矯正教育を施す必要性を痛感させる。

四  処遇について

以上の事実および前認定の窃盗の触法事実に懲すれば、少年は現在自覚のないままに後戻りの出来ない悪の道に急速に踏み込もうとしているものと断じうるのであり、現時点においては少年に対し施設において教育保護を施し、その不良傾向を除去するよりほかないものと思われる。審判に立会つた父M・Sは、少年の不良行為は自分の責任であると述べて自己の至らなさを反省し、出所の暁は必ずや十分養育監護につとめるから、施設入所はみあわせてほしい旨陳述し、当裁判所も同人に父親としての愛情を認めるものではあるが、同人の刑期終了は、本年九月二四日であり、目下のところ、仮釈放の見込みもない由であり、また出所後においても直ちに少年の監護が十分にできるとは思われない。さらに祖母M・Y子も審判廷において「もう一度家に帰して欲しい」旨述べるが、これまでの経緯に鑑み、その保護能力には十分なものを期待しえない。以上の次第で、当裁判所は、保護者、関係諸機関の報告、意見等も十分聴取したうえ、本件については、少年の年齢等を考慮して、少年を教護院に送致するのが最も適切な方策であると思料する。

五  結論

よつて、少年法二四条一項二号により、主文のとおり決定する。

(裁判官 森野俊彦)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例